時間予測モデルと今後30年の発生確率。南海トラフ巨大地震は2034年に起きるのか?

少し前の話になりますが、南海トラフ巨大地震の「今後30年以内の発生確率」が見直されました。
従来は「70~80%程度」と説明されることが多かったこの確率が、「60%から90%」という幅を持った表現に修正されています。本日は、この変更の背景と、どのように受け止めるべきかについて整理してみたいと思います。

地震規模と発生間隔という考え方

地震研究の分野では、「地震の規模が大きいほど、次の地震までの間隔は長くなる」という考え方があります。
南海トラフ地震については、この考え方を検証するための貴重な資料が存在します。

その代表例が、高知県・室戸岬です。室戸岬では、江戸時代以降、地震に伴う地盤の隆起量について比較的詳細な記録が残されています。この隆起量から、当時発生した南海トラフ巨大地震の規模を推定し、さらに「次の地震が起きるまでにどれくらいの時間がかかったか」を整理することで、地震規模と発生間隔の関係を分析することが可能になります。

この手法に基づくと、前回の昭和南海地震(1946年)から約88年後、すなわち2034年から2035年頃が一つの節目になる、という結果が導かれます。いわゆる時間予測モデルです。

モデルに対する批判と不確実性

もっとも、この考え方には以前から批判もあります。
例えば、

江戸時代の古文書は本当にどこまで正確なのか

室戸岬という一地点のデータだけで議論するのは、サンプルが少なすぎるのではないか

といった点です。

こうした不確実性を踏まえ、地震調査委員会では「特定の年を断定的に示す」のではなく、「幅を持った確率表現」に修正する判断を行いました。その結果が、「今後30年以内の発生確率は60%から90%」という表現です。

見落としてはいけない事実

ここで重要なのは、「確率の幅が広がった=危険性が下がった」という意味ではない、という点です。

実際、過去を振り返ると、前回の南海トラフ巨大地震は約90年という間隔で発生しています。また、1946年の昭和南海地震は、1854年の安政南海地震と比べると、規模はやや小さいとされています。

つまり、モデルの是非は別としても、「前回から約88年で次が来てもおかしくない」という事実そのものは、過去の実績と矛盾していません。

まとめ:確率ではなく、前提条件として考える

南海トラフ巨大地震の発生確率の修正は、「当たる・当たらない」の議論をするためのものではありません。
不確実性を正直に織り込んだうえで、「いつ起きてもおかしくない」という前提に立ち、備えを進めるための情報です。

確率が60%であれ90%であれ、私たちが取るべき行動は変わりません。
重要なのは、数字の大小に一喜一憂することではなく、起きたときに社会や事業、生活がどこまで耐えられるかを、今のうちから具体的に考えておくことだと考えています。

中小企業診断士、事業継続管理者
竹上将人