企業再生のコンサルティングや経営改善計画策定のご依頼を受けた会社の決算書を見させていただくと、かなりの確率で存在するのが経営者個人からの借入です。現在経営状況が悪化している会社でも、過去に利益が出ていたときに役員報酬も多く、経営者が一定の資産を保有しているケースも多々あります。銀行からこれ以上の借入が困難な状況となった場合にこれまで蓄えていた経営者個人の資金を会社に入れることで、資金繰りの悪化をとりあえず回避しているものと思われます。
このような経営者からの借入が多い会社に対し、我々が支援に入ることで事業再生にこぎつけるケースも多々あります。PLが黒字化し、会社も落ち着きを取り戻すと次は事業承継が課題となりますが、そのときに経営者からの借入が問題になります。相続時に経営者が会社に貸し出しを行った場合は、その金額がそのまま相続財産と認識され相続税がかかってしまうのです。もちろん、会社が返済できれば問題ないのですが、多くの場合は事業再生の端緒についたばかりで返済が難しい場合がほとんどです。
この場合にとりあえず考えられる解決策としては、経営者が借入を債権放棄する方法です。会社側に債務免除益が発生しますが、繰越欠損金の範囲であれば会社側に法人税が発生しないですみます(繰越欠損金の控除という制度があり、会社の損失を9年間は次年度以降に繰り越すことができます。)。繰越欠損金がなければ当然にとれない手法ですが、繰越欠損金が存在したとしても、ここで利用してしまうと、今後利益を出したときに使うことができず法人税がかかってくるデメリットもあります。事業再生途中の企業の多くは経営改善を行うとともに、増加したキャッシュフローから金融機関への債務の返済に充てなければなりません。繰越欠損金が豊富にある場合には、法人税の支払額がほとんどないため事業活動で得たキャッシュフローがそのまま返済原資となります。しかし、経営者の借入の免除益を出たときに繰越欠損金を使ってしまった場合には、事業活動で得たキャッシュフローが法人税の支払いにあてられ事業再生がスムーズに進まない事態ともなりえます。
結局、経営が悪化したときに、その場しのぎとして経営者の資金を投入したことが、後々事業再生や事業承継を行ううえでのリスクになってしまうわけです。また、経営者個人の資金を投入しても会社が立ち直らなければいつか限界にきます。結局は、経営を抜本的に改善しない限りは本質的な解決策にならないわけです。まずは目先の資金繰りのことを考えるのは経営者として仕方がない部分もあります。しかし、経営の改革を後回しにせず取り組んでいくことが最も重要であることを忘れてはならないだろうと思います。